サーファーが知っておきたい台風の知識-その2- (発生と発達、進路とコース)

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【Kindle】サーファーが知っておきたい台風の知識

台風を良く知るための連載(2回目:発生と発達、進路とコース)

前回の記事では台風の基本的な知識として、台風の定義と名前について、および台風情報でも表現に使う強さと大きさについて、記載しました

台風のことを知っておく(その1)

なぜサーファーが台風に注目するのか?[caption id="attachment_8459" align="alignleft" width="2016"] 某ポイント:台風の強い南うねりが入ったときに素晴らしい波が現れる[/capt[…]

今回は台風のことを知るシリーズの2回目として、主に台風の特徴となる発生するエリアと進路・コースについて記載していきます。

ここに記載する台風の内容はいわゆる教科書的な内容として平均的な発生場所やコースについて記載していますが、実際の台風はその時どきの状況により全く異なるものですので、その点だけ前提としておきたいと思います。

台風の発生するエリア

そもそも台風はどこで発生するのか。

普段の天気予報を見ていても常識としてわかっているかと思いますが、台風は南の海上で発生します。

具体的にいいますと、今までの統計情報からは

東経120度から150度、北緯は10度から20度くらいまでの海域

が主な発生エリアです。この発生場所についてはいろいろな見方がありますが、まあだいたいこんなエリアで発生します。

赤道付近ではなく赤道よりも少し北側の海域で多く発生していることになります。

なんで発生するのかというと、以下の3つの点が主なトリガーとなります。

  • 風が収束して大量の雲が発生
  • 海水温が2627度以上
  • 渦を巻く力が働きだす

以下ではこの3点について、ざーっくり記載していきます。

①風が収束して大量の雲が発生

まず赤道から少し北側のエリアは、「北と南からの風がぶつかるエリア」というところから話ははじまります。

赤道の北側には北東の風の北東貿易風、南側には南東の風の南東貿易風がそれぞれ吹いており、この南東貿易風が赤道を越えて吹いてきたものと北東貿易風の2つの風がぶつかるエリアを熱帯収束帯ITCZ : intertropical convergence zone)といいます。

geo41.comページ内 atmosphere から引用 https://www.geo41.com/weather-igcse#atmospheric-circulation

このエリアでは風がぶつかり収束するエリアであることから、上昇気流が発生します。

風が上昇するということはそこには雲ができるという訳で、赤道を挟んで2つの風がぶつかり続けるため、そこには大量の雲が発生するということです。

まずこれが台風が発生する雲のきっかけです。

②海水温が26~27度以上

熱帯収束帯では雲が大量に発生するということがわかりましたが、その発生した雲が全て台風になるという訳ではありません。

多くの雲が発生するけどすぐに消滅していきますが、その中でも選りすぐりのエリートな雲?が発達していきます。

その雲の発達に重要なのが海水温です。

赤道付近は海水温が高いのは容易に想像つきますが、一般的には海水温が2627度以上の海域で台風が発生すると言われています。

台風は海水温が2627度以上の海域で発生する

台風の発生と発達には、この温かい海水から吸い上げられた上昇流に含まれる大量の水蒸気が必要であり、これが台風のエネルギー源となります。
この台風の発達については後でもうすこし詳しく記載します。

海水温のデータはこちらで確認できます(気象庁ホームページ)
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/sst_HQ.html

③渦を巻く力が働きだす

雲域がまとまってきただけでは熱帯低気圧までにはならないので、そこに新たに渦を巻く何かしらの力が加わることが必要となります。

そのまとまった雲に加わる力がコリオリの力です。

このコリオリの力についてはまた別の記事に記載しようと思いますが、簡単に記載しますと地球の自転の影響による力で、北半球では風を右に曲げるようにする見かけ上の力です。

実際には動くもの全てに加わる力となり、風だけでなく海流などもこのコリオリの力により北半球では見かけ上では右に曲げられてしまいます。

またこのコリオリの力というのは赤道付近ではあまり働かない力であり、緯度が高くなればなるほど働きが強まる力です。

よって風を曲げるコリオリの力が働き出すエリアは赤道よりも少し北の海域であり、北半球の場合はコリオリの力により反時計回りの渦が巻き始めることで、台風の卵がここで誕生することになります。

すこし詳細に記載しないと理解しにくい部分ですが、まずはこんな状況だけでも理解してもらえれば十分です。

台風のエネルギー源と発達

先ほども記載しましたが、台風が発達していくには大量の水蒸気が必要となります。

ここでは台風のエネルギー源の供給とそれを取り込んでの発達するサイクルについて記載していきます。

上昇気流が大量の水蒸気を吸い込む

赤道の北側の海域で生まれた台風の卵は、このエリアを吹く貿易風に乗って西へ進んでいきます。

  • はるか南の太平洋の海上を西へ進んでいく台風の卵は、移動していく中で海から大量の水蒸気を上昇気流により吸い込みます
  • 上昇流が海上の湿った空気を大量に吸い込み、その吸い込んだ水蒸気が上昇して冷やされて凝結し、潜熱を放出しながら雲をさらに発生させます。
  • 潜熱が放出されることにより、周囲の空気は温められることで気圧が低下し、気圧が低下することで周囲との気圧傾度が大きくなって中心へ向かう風が強くなり、渦も強まっていきます。
  • さらに中心へ向かう風が強くなることで風速の違う風が発生して速度の収束が起こり、収束が起こることで上昇流が強まっていきます。

ちょっと表現としてわかりにくかったかもしれませんが、結果が原因をつくり更に原因が結果をつくるというスパイラルにはまることでどんどん雲域が発達するということ。

要は雲を発達させるパターンにハマるということですね。

 

この台風の発達サイクルのことを気象用語では、CISKConditional Instability of Second Kind:第ニ種条件付不安定)といいます。

  • ①熱帯収束帯(ITCZ)により下層で風が収束
  • ②収束により上昇気流が発生
  • ③上昇流により水蒸気が凝結
  • ④水蒸気の凝血により潜熱が放出
  • ⑤潜熱の放出により周囲が温められて軽くなり気圧が低下
  • ⑥気圧の傾きが大きくなり中心に向かう風が強くなる
  • ⑦中心への風が強まることで渦運動も強化される
  • ⑧風速強まった風がもともとの遅い風に追いついて速度収束が発生
  • ⑨上昇気流が強まる

台風や熱帯低気圧の内部では、上記の1〜9が繰り返されて発達のサイクルが発生し、どんどん雲域が発達していきます。

こんな感じで台風の卵は発達しながら海上を移動して熱帯低気圧となり、中心付近の最大風速が17.2m/s以上になると台風になります

海水温が高く台風のエネルギー源となる水蒸気の補給が続く限りこのサイクルも続き、台風の発達が続くことになります。

発達の過程でも重要なのは海水温

気象庁HPより引用https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/sst_HQ.html

台風は海水温が26度から27度以上の海域で発達するといわれており、赤道から近い海域の海水温は1年中だいたいこれくらいはあるので、台風は一年中発生します。

ただそれよりも北の海域になってくると季節により海水温は変動するため、北半球の冬では台風が発生したとしても発達せず消滅することがほとんどです。

また、北半球の夏になれば海水温が28度の海域が日本付近まで広がってくることにより、台風は南の海上で発達して勢力を維持したまま日本に近づいてくることがあります

季節ごとの台風のコース

上記のとおり台風の発達には海水温が大きく影響しており、季節によって発達する海域が異なることがわかりました。

これともう一つ、季節ごとに異なるのが台風の進路・コースです。

以下は気象庁のホームページより引用してますが、月別の台風の平均的なコースです。

台風の月別の主な経路(実線は主な経路、破線はそれに準ずる経路) https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-4.html

まず台風自体は、自らの力では動く性質はわずかしか持っておらず(一部コリオリの力により北へ移動する力はあります)、基本的には台風周辺の気圧配置とそれに伴う風によって流されることでコースが決まってきます

つまり季節ごとに気圧配置や風の流れ方が異なるため、台風のコース・進路も季節により異なってくるという訳です。

初冬から初夏までは短命の台風

台風は一年中南の海上で発生はするものの、1月から5月までに発生した台風は、周囲の海水温が低いために短命となりすぐに消滅してしまうことが多いです。

11月から12月になると、まだ海水温は高いエリアが残ってはいるのですが、今度は北から冬の空気が優勢になってきて、大陸から高気圧が日本付近に張り出してきます。

この高気圧に日本付近が覆われることが多くなってくるため、台風は日本付近には近づくことができずに南シナ海方向へそのまま西へ進むか、もしくは日本のはるか南海上のエリアで向きを変えるものが多くなってきます。

台風シーズンは6月から10月

夏が近づいてきた初夏の頃の台風は、南の海上を貿易風の東風にのって東へ進み、そのまま南シナ海方向へ進むコースが多いですが、ここ最近は6月でも本州へ向けて接近してくる台風も多くなってきました。

そして北半球が夏となってくる7月以降は、はるか南海上を貿易風にのって西へ進むまでは同じですが、フィリピンや台湾の東海上を北上するような進路になることが多くなります。

夏の台風の進路を握る太平洋高気圧

8月から9月が一番の台風シーズンとなり、この時期の台風の進路に大きく関わるのが夏の太平洋高気圧です。

この時期は東の海上に中心を持つ太平洋高気圧の勢力が強くなり、日本付近まで張り出してきて覆うようになってきます。

夏の台風は太平洋高気圧の縁辺を吹く風に流されて移動することがよく知られており、夏はこの高気圧の張り出しの位置によってコースが変わってきます。

高気圧がすっぽり日本列島を安定して覆っていれば、台風は高気圧のバリアにより日本に近づくことはできません

ですが、この高気圧の“バリア”が弱まったときに台風はその一瞬をついて日本に向けて接近してくることがあります。

パターンとしては、以下の2つが主なところ

  • 高気圧の勢力が弱まって張り出しが東へ後退し高気圧に覆われなくなったとき
  • 高気圧が日本の上空で2つに分断されて台風の通り道ができたとき

こんな時に接近・上陸するコースをたどるため、夏の台風は太平洋高気圧の位置と勢力をよくチェックしておく必要があります

ちなみに太平洋高気圧の張り出し具合については、専門天気図になりますけど、500hPaの等圧面天気図に描かれている、5,880mの等高度線が太平洋高気圧の勢力に相当していることが知られています。この等高度線の予想を見ておけば、だいたいこんなコースになりそうかというのがわかるようになります。

以下は2019年8月3日 夜9時の週間予報支援図(FXXN519)です。

左上の四角枠にはT72との記載がありますが、これは72時間後の8/6の予想天気図ということ。ここから8月11日まで毎日の予想天気図が掲載されています。

各日毎の天気図は2つありますが、左側の天気図が500hPaの等圧面天気図となっており、この中に5,880mの等高度線が描かれているのがわかります。

この等高度線が太平洋高気圧の勢力範囲に相当しており、8月8日から現れる低気圧(台風)はこの5880mの線に沿って9日から11日にかけて北上する予想が出ているのがわかります。

週間予報支援図
週間予報支援図FXXN519 一部加工

転向点で進路を西から東へシフト

台風ははるか南の海上を貿易風に乗り西へゆっくり進みます。
貿易風はそれほど強い風ではないため、この風に乗ってゆっくりとながされていく訳です。

ですが西に進むという訳でなく、西北西の方向に進んでいきます。
これにはコリオリの力が関係しており、緯度が高いほうへすこし引っ張られる感じの力(北へ向かう力)が加わることで、西ではなく北成分がはいった西北西の方向に進むことが多いです。

しばらく西北西に進むと、貿易風のエリアから外れることで、台風はここでスピードが遅くなります。

そして風の影響が弱いエリアでは台風自体の北へと向かう力によりゆっくり北上し、今度は偏西風の西からの風が吹くエリアに次第に移動していきます。

この台風の向きが変わる点を「転向点」といいます

転向点付近で、その台風としての勢力が最大となることが多いです

この転向点を過ぎたあとは、上空の強い西風が吹いている偏西風のエリアで台風はジェット気流に乗り、一気にスピードを上げて日本列島を北東方向へ駆け抜けるコースが多くなります。

参考)日本列島を東から西へ進んだ前代未聞の台風

以上は過去の台風のコースから平均的な月別のコースについて記載したもので、いわば教科書的な内容のコースに関しての説明です。

実際はここに記載した通りのものばかりではなく、その時々のさまざまな要因によってさまざまなコースを辿ります。

過去にはこんな台風もありました。

2018年台風10号

異例のコースとなった記憶に残る台風2018年の台風12号は記憶に残る台風となった。コースは上記の気象庁HPに掲載されている台風経路図のとおりで、文字にすると以下のようなコースを辿ったことになる。今まで経験したこと[…]

通常の台風は日本付近では西から東に向けてジェット気流に乗り北東方向へ移動していくのですが、この2018年の台風10号は日本列島を東から西へ横断したという前代未聞のコースを辿った台風となりました。

これにはいろいろな理由がありましたが、一番の理由は日本の上空に冷たい空気の渦が停滞していたことにより、この冷たい渦(寒冷渦といいます)に台風が引き込まれていくという非常に珍しい状況になったためです。

この寒冷渦という冷たい渦台風という温かい渦が合体するというケースは、非常に危険な気象状況になる可能性が高く、大きな被害となる可能性が高くなる台風です。

この台風12号のように、日本の上空で東から西へ進む台風は大きな被害をもたらす可能性があり、進路にあたる地域では厳重な警戒が必要になります。

※日本のすぐ南海上で太平洋高気圧の縁辺を西へ進む台風もありますが、この場合は寒冷渦とは関係なく上記で記載した台風とは別の構造の台風となります。

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まとめ:サーファーが知っておきたい台風の知識

今回は台風がどこで発生してどんなコースをたどるのかをメインとして、台風の発達のメカニズムまでの内容をまとめてみました。

繰り返しになりますが、ここに記載されている内容はあくまで平均的なコースや発生場所などの情報であり、ここ最近は平均的なものから逸脱する台風がゴロゴロ発生してきています。

これからそのような台風が更に増えてくるのかもしれませんが、まず台風の基本として今回の内容をおさえておいてもらえればと思います。

台風のコースはサーファーにとっても非常に注目される内容であり、コースと位置によりホームのポイントに反応するうねりの向きも変わってきます

台風のうねりでいい波に乗るために、日々進化している台風情報や今回記載した内容を踏まえてうまく活用してもらえればと思います。

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以上、「いい波に乗るために〜台風のことを知っておくその2- (発生と発達、進路とコース)」でした。

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